コラム
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HACCPとデジタル化
2022.5.25
こんにちは。今回のコラムを担当する、中小企業診断士・上級食品表示診断士の高木 敏明(たかぎ としあき)です。
前回は「経営とHACCPシステム」というテーマでお話しましたが、今回はHACCPによる衛生管理のデジタル化について、具体的なヒントをお話ししようと思います。
お役に立てば幸いです。
1.HACCPにおける記録の重要性
食品工場におけるHACCPによる衛生管理の目的は、
・原材料の受け入れ、保管、製造加工、出荷までのすべての工程で、
・想定される危害要因を評価して、
・それぞれの危害をなくすか健康に影響を与えない程度に軽減する対策を実施することで、
食品の安全を確保することです。
HACCPによる衛生管理を運用するために実施しなければならない手順が定められています。
それが、HACCPの12手順と7原則です。
それぞれの詳細は割愛しますが、手順12に「記録・文書の保存方法の設定」という要求事項があります。
それはHACCP衛生管理に関する記録・文書がとても重要であることを示しています。
HACCP衛生管理では、各工程での衛生管理の実施状況を記録に残します。
そうすることで、クレームに対する迅速な原因究明や、後で振り返ることで衛生管理の改善に役立てることができます。
このような記録の重要性は、食品製造業界に限ったことではありませんね。
どんな業界でも、日々の経営実態を記録に残すことでクレームの対応や業務の改善・効率化の手助けになります。
2.HACCPに必要な書類・記録
HACCP衛生管理を実施する際に、デジタル化により効率化できるところをお話する前に、HACCPに必要な書類・記録について少し説明します。
(1)衛生管理計画書
この書類は、経営者が全社に示す「食品安全方針」に沿って施設・従業員・工程ごとの一般衛生管理・重要衛生管理点のモニタリング方法などを記載した書類です。
一度作成したらそれで終わりというものではありません。
各部署で衛生に関する手順を確認し、実行して、記録に残し、振り返って改善のために役立てます。
従って、社内でいつでも誰でもが閲覧できる状態が望ましいです。
また、振り返りによって、より良い衛生管理を目指すために都度改訂される書類です。
(2)重量管理点のモニタリング記録
この記録は、重要管理点(例えば食品の加熱工程や金属検出工程)ですべての食品の安全を確保するために、
管理基準(例えば加熱工程では中心温度の測定をして管理基準:85℃達温を確認する)から逸脱したものはないことを記録した書類です。
(3)一般衛生管理の記録
例えば、工場入場の際の手洗い・体温申告・体調管理、原材料を受け入れるときに決められた品質を満たしているか、
食品の取り扱いが衛生的に行われたかなどの一般衛生管理と呼ばれる事項を記録したものです。
3. デジタル化による書類の記録・検索・閲覧業務の効率化のヒント
手順書や記録などの書類は、デジタル化と相性が良いし、記録や書類のデータをデジタル化することが容易です。
デジタル化することで、入力やデータ保管、書類検索・閲覧の大幅な効率化が見込めます。ここでは私が見聞きしたデジタル化のヒントを挙げてみます。
● Google formを利用した来場者の入場管理記録
工場の入り口に、Google formにアクセスできるQRコードを掲げておきます。
来場者は自分のスマホから工場の入場管理記録項目を記載したGoogle formにアクセスして、
来場日時、来場者氏名・所属、来場目的、体温、体調、などのアンケートを入力することで、 紙を使わない入場管理記録ができ上がります。
● デジタルカメラを利用した、添付ラベルの照合
多種類の食品アイテムを製造している場合、
その商品と表示ラベルが一致していないと、アレルゲン情報や添加物の違いによって事故が発生するリスクが高まり、商品を回収しなければならない事態が発生します。
そのラベルを照合して記録する代わりに高精度のデジタルカメラを利用してラベルの不一致を検出する装置を使用している食品工場があります。
● 通信機能を有した中心温度計による中心温度記録のデジタル化
通常は、加熱直後の食品の中心温度を測定し、温度記録用紙に手書きで時刻・温度などを記録していますが、
衛生手袋をはいている手で記録がしにくいことや記録用紙が汚れてしまうなどの不具合があります。
このような不具合を解決し記録の手間を省くことができます。
● 有料HACCPサポートアプリを利用する
これらのアプリを利用すれば、衛生管理計画書、手順書、各手順書に沿った実施記録、重要管理点のモニター記録(加熱機器や冷蔵庫の温度記録・半製品の中心温度記録)などを簡単に入力出来て、クラウド上でデータを一元管理できます。
具体的なヒントをお話してきましたが、ヒントを自社で応用する前にお勧めしたいことがあります。
それは、<なぜデジタル化を進めるのかということを明確にする>ことです。
・自社で何をどのようにどれくらい効率化したいのか?
・かけられる費用はどれくらいなのか?
・そもそもデジタル化によって何を目指すのか?
・作業の効率化?その目的は?コスト削減?なぜ?利益確保?なぜ?
これらの問いに明確に答えられるようになるまで、議論を尽くしてからその目的を達成するためにデジタル化のツールを選択するのが、
遠回りのように思えますが、デジタル化の効果を実現する近道だと思います。
この記事を書いた人
高木 敏明
大手食品会社で商品開発と品質保証に携わった後、
コンビニエンスチェーンの事業協同組合に出向し、
商品開発と惣菜工場の衛生管理支援に従事してきました。
現在はフリーで中小食品企業の商品開発と衛生管理の支援を行っています。
中小企業診断士/上級食品表示診断士/JFS監査員研修修了/1級販売士