鮟鱇鍋(あんこうなべ)

俳人加藤楸邨(しゅうそん)の有名な句に「鮟鱇の骨まで凍(い)ててぶちきらる」がある。

人間探究派と言われた加藤らしく凄絶な趣がある。この句を読んで、湯気をたてる鮟鱇鍋まで思い浮かべるには、相当な想像力と貪欲な食へのこだわりがないと難しい。が、実のところ吊るされた鮟鱇が骨まで凍るような寒い日こそ鮟鱇鍋が美味い。魚肉には充分油がのり、葱も白菜も霜をかぶって甘味が増している。しかも、外気の冷たさが鍋を囲む喜びを大きくする。寒さがもう一つの旨味となるのだ。

吊るし切りされる鮟鱇はなんともグロテスクだが、見かけとは全く違って淡白で美味い。しかも、鮟鱇の七つ道具と言うが、食べられない部分がほとんどなく、それぞれの独特の食感を楽しめるのもうれしい。各部位を一揃い入れた鍋用のパックを売っているので、寒い日はそれで鍋を試みる。確かに美味い。が、時には「こんなにきれいで洗練された鍋が、鮟鱇本来の食べ方なのだろうか」と疑問が湧いて来る。

と言うのも、冬になると茨城の郷土料理「どぶ汁」がTVで紹介されることがある。なんともすごい名前だが、水を一滴も加えず野菜と鮟鱇だけで作る鍋だ。すり潰した鮟鱇の肝と味噌で味をつける野趣あふれる料理だ。もともと船上で漁師が食べた鍋。いわば賄い食だった。釣ったばかりの鮟鱇だからこそ、この鍋ができるのだと思う。海から離れて食べるのは難しい、こちらから足を運ぶ以外にはない、一度食してみたいものと思ってきた。が、この冬、茨城の海はどうなのだろうか。

(M)