新酒

秋も深まってくるとワインだけではなく日本酒も新酒が話題にのぼるようになる。

一足早い10月半ばに、気仙沼のある酒屋で明後日に酔仙酒造の新酒がでると聞いた。
「雪っこと言う酒で、出荷できる量が少なくすべてワンカップになる」と語る老店主の顔に喜びがあふれていた。
津波に流されていく酔仙酒造の看板の映像は記憶に生々しい。酔仙が新酒を出すことは、地元のみならず日本中に東北が復興へ歩み出していることを知らせる。なにより被災地で立ち上がろうとしている人々への強い応援になるに違いない。被災者でもある件の酒屋の老店主の笑みが端的にそれを語っていた。
11月、NHKのドキュメンタリー番組で雪っこができるまでの苦闘を見た。酔仙酒造は越前高田を離れ一関の古い蔵を手にいれた。温度管理もできない老朽化した設備と厳しい残暑、次々に立ちはだかる困難と格闘する杜氏や蔵人の姿に、あらためて普通の人々の底力と熱い魂を感じた。

残念ながら雪っこは味わえなかったが、気仙沼の地酒「福宿(ふくやどり)」を飲んだ。もちろん新酒ではない。が、地酒は美味い。気取らず、洗練しすぎず、日本酒本来の雑味が生きている。微妙な不純物が日本酒の個性を出している。
とことん磨いたり、フルーティーにした吟醸酒も美味いことは美味い。が、日常に飲む酒ではない。米も水も気候も蔵人の心も一体となって生み出された地酒は、格別の味わいがある。地酒の新酒が待ち遠しい。

(M)